Technology Data 技術資料
■低アルカリ瓶とは・・・
アルカリ溶出が従来品に比べて、極めて少ないガラス管瓶のことです。低アルカリ瓶には、従来アルカリ溶出を低減するために製造後行われていたサルファー処理や酸処理とは異なり、薬品を使わず、ガラス管瓶そのものの製造工程で、アルカリ溶出を少なくする製法を用いています。そのため、従来品よりも安心してご使用頂けるのです。
■低アルカリ瓶の製造方法及び性能
現在、当社で製造している医療及び理化学用ガラス管瓶は、様々な種類の薬品や検査試料の保存容器として使用されています。そして、そのユーザーは、製薬、医療機関、研究所、学校関係等、多方面にわたっています。
当社のガラス管瓶の製造においては、通常のガラス容器のように熔融したガラスから成型するのではなく、あらかじめ成型されたガラス管を素材として、二次的に管や瓶に加工成型するという方法をとっています。それが、一般的にガラス管瓶と呼ばれているものです。用いられるガラスの種類は、耐水性に優れた良質のホウケイ酸ガラスです。
ガラス管の二次的加工によって管瓶を成型する場合、管瓶の胴部分はそのまま利用しますが、口部及び底部は、バーナー火炎により所定の長さの分だけガラス管を再熔融させ、新たに成型をします。その工程で、熔融されたガラス管は、高温に熱せられ、熔融各所からガラス中に含まれるアルカリ成分が揮発し、管瓶胴部分の内壁に付着凝集します。さらに続いて、成型の完了した管瓶に、成型歪を取り除くために熱処理を行うのですが、この時に、前工程で付着凝集した成分が、胴部分内壁に融着してしまい、管瓶内表面にアルカリ成分に富んだ層を形成してしまうのです。従来のガラス管瓶は、このような状態であったため、もともとあった素材ガラス管の良好な耐水性が全く失われてしまい、アルカリ溶出の高い容器となっていたのです。このような管瓶に薬液を保存すると、管瓶からのアルカリ溶出によって、内容液の水素イオン濃度(pH)を変化させたり、時には沈澱などを生じて内容物を変質させる恐れもありました。
そこで、NEGでは、独自の成型加工法を考案し、管瓶成型時の加工温度を成型に支障をきたさない程度に低く抑えることにより、アルカリ成分の揮発を低減化させ、前記の問題を解決することに成功しました。その一例として、表1に性能を示します。性能評価法として、容器に満量の90%の蒸留水を入れ、オートクレーブ処理(120℃ 60分)をした後、アルカリの溶出量を測定する方法を用いています。
(アルカリ溶出量として、日本薬局方一般試験法に準ずる)
酸滴定とpH測定を行い、酸滴定量が多い程、またpH値が高い程、アルカリ溶出が多いことを示しています。
■表1 従来瓶と低アルカリ瓶とのアルカリ溶出量比較
A:0.02N硫酸滴定量(ml)
管瓶種類 | 従来瓶 | 低アルカリ瓶 |
---|---|---|
2mlタイプ | 0.025 | 0.005 |
3mlタイプ | 0.031 | 0.008 |
5mlタイプ | 0.087 | 0.015 |
10mlタイプ | 0.103 | 0.025 |
20mlタイプ | 0.157 | 0.037 |
30mlタイプ | 0.201 | 0.037 |
B:内容液のpH
管瓶種類 | 従来瓶 | 低アルカリ瓶 |
---|---|---|
2mlタイプ | 8.15 | 6.56 |
3mlタイプ | 8.23 | 6.86 |
5mlタイプ | 8.20 | 6.78 |
10mlタイプ | 8.19 | 6.70 |
20mlタイプ | 7.58 | 6.58 |
30mlタイプ | 8.12 | 6.58 |
表1Aより、低アルカリ瓶は、従来瓶に比べて、硫酸滴定量は1/4〜1/5となっており、また、表1Bより、内容液のpHは、充塡した蒸留水のpH6から大きく変化することなく、pH7を越えることはありません。これらの結果により、低アルカリ瓶は従来瓶に比べて、アルカリ溶出が低くなっていると言えます。これらの研究は、昭和60年度技術改善補助金〔旧通商産業省〕の交付を受け、旧通商産業省工業技術院大阪工業技術試験所の指導で行ったものです。
■ガラス管瓶内表面状態
ガラスの管瓶の成型において、可能な限り低温で、成型加工することによって、ガラス管瓶からのアルカリ溶出が少ない低アルカリ瓶を製造することができました。ここでは、低温加工することによって、ガラス管瓶内表面が、どのようになっているかを観察しましたので、報告させて頂きます。
方法として、ガラス管瓶胴部を乾式で切り出して、その内表面のナトリウムをXPS(X線光電子スペクトル)装置で分析することにしました。同時に、アルゴンイオンスパッタリングによって試料表面をエッチングして、深さ方向の濃度分布を測定しました。
図-1は、従来品、低アルカリ瓶の胴部と、未加工素材管の内表面ナトリウム濃度分布を示したものです。縦軸はナトリウム濃度、横軸は表面からの深さを示しています。これにより、ガラス管瓶内表面ナトリウム濃度は、未加工素材管のそれより高くなっていることがわかります。これは、ガラス管瓶の底部加工時に揮発したアルカリ成分が、胴部内表面に付着凝集したものと考えられます。さらに、それがガラス管瓶成型後の徐冷(610℃ 10分)によって、ガラス内部に拡散し、表面付近のアルカリ濃度を高めています。
従来品と低アルカリ瓶の表面ナトリウム濃度を比較すると、低アルカリ瓶の方が低くなっており、アルカリ溶出が少ないことを裏付けています。
■ガラス管瓶熱処理
ガラス管瓶の熱処理によってそのアルカリ溶出がどのようになるかについても検討しました。熱処理として、ガラス管瓶が成型された直後に行われる除歪工程(徐冷工程610℃ 10分)を繰り返しました。アルカリ溶出試験として、2mlタイプのガラス瓶に満量の90%の水を入れ、オートクレーブ(120℃ 60分)した後、中の水に溶出したナトリウム(Na)とカリウム(K)をAAS(原子吸光)装置で分析しました。
図-2にその結果を示します。熱処理を繰り返すことによって、ガラス管瓶からのアルカリ溶出(NaとKの溶出)は少なくなっています。これは、熱処理によって、表面付近で濃度が高くなったアルカリが内部へ拡散し、ガラス内部でのアルカリ濃度が平均化されたためだと考えられます。さらに、熱処理によって、ガラスが焼き締まったため、アルカリ溶出が少なくなったものだとも考えられます。
これらにより、ガラスからのアルカリ溶出を減らす方法として、ガラスが軟化変形しない温度で、熱処理を施すことが有効であることがわかりました。
XPS :(X線光電子分光)
XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)は、試料にX線を照射した時に、放出されるX線光電子をエネルギー分析して、固体表面元素とその化学結合状態を知るものです。(ESCAとも言われます。)
AAS :(原子吸光)
AAS(Atomic Absorption Spectrometry)は、光が原子蒸気層を通過する時、基底状態の原子が特有波長の光を吸収する現象を利用し、試料中の被検元素量(濃度)を測定するものです。
■当社ガラスの組成と物性、溶出元素
これまで、ガラス容器からのアルカリ溶出だけに注目してきました。しかし、バイオテクノロジー等の発展により、高純度で微量試薬を用いるようになり、ガラス容器の評価法としては、アルカリ溶出試験だけでは十分とは言えない状況になってきました。つまり硫酸滴定と
いうような間接的な方法ではなく、直接的な方法が望まれているのです。そのような理由から、アルカリ成分はもちろんガラス構成元素全体についての溶出を検討致しました。下図が、当社が使用しているガラスの組成と物性を示したものです。
当社が使用している素材ガラスは、図3に示したように酸化ケイ素、酸化ホウ酸、酸化ナトリウムを含む7種類の酸化物で構成されています。管瓶は、このようなガラス素材を使用して作られているため、これらの溶出を観察しなければなりません。その参考例として、管瓶の溶出成分を分析した結果を表2に示します。溶出試験法として、管瓶に満量の90%の水を入れ、オートクレーブ処理(121℃ 60分)した後、内容液に溶出した成分を分析しました。
■表2 管瓶からの溶出元素(単位ppm)
溶出元素 | Si | B | Na |
---|---|---|---|
従 来 瓶 | 2.62 | 0.67 | 1.21 |
低アルカリ瓶 | 1.76 | 0.39 | 0.78 |
表2より管瓶の内溶液に、ガラス構成元素がごく微量ではありますが、溶出しています。低アルカリ瓶は、アルカリ溶出のみならず他の元素の溶出も低減していることがわかります。次に低アルカリ瓶を用いて、ガラス構成元素全てについて分析した結果を表3に示します。
■表3 10、20mlタイプ管瓶からの溶出元素(単位ppm)
溶出元素 | Si | B | Na | AI | K | Ba | Ca |
---|---|---|---|---|---|---|---|
10mlタイプ瓶 | 1.780 | 0.300 | 0.570 | 0.008 | 0.030 | 1.110 | 0.050 |
20mlタイプ瓶 | 1.621 | 0.380 | 0.780 | 0.042 | 0.030 | 0.190 | 0.052 |
表3よりガラス構成元素全てが、溶出していることがわかります。管瓶からの溶出量はごくわずかですが、使用目的によっては注意を払う必要があります。
■ガラス管瓶、試験管の洗浄について
洗浄とは、“物質の表面から汚染物を除去し清浄な表面をうること”とされてますが、現実には、そう簡単にはいきません。厳密に言うならば、表面に吸着しているガス、水分まで問題となるのです。仮に、清浄な表面が得られたとしても、その後のハンドリング等で、その効用を失ってしまうことがあるのです。ここでは、ガラス管瓶や試験管を中心に、ガラス器具についての一般的な洗浄方法を説明し、その注意事項について示します。最後に、滅菌についての注意も示します。
・汚れの種類
ガラスの汚れは、ガラス表面に付着した塵あいや指紋などの油脂、雰囲気中の油ミスト等と、ガラス表面に生じた変質物の2つに分けられます。ガラスの来歴やガラス製品の使用環境によって、それぞれの汚れの種類は異なり、それぞれの汚れに合った洗浄方法を採用しなければなりません。
・洗浄方法
洗浄方法は、湿式洗浄方法と乾式洗浄方法の2つに分けることができます。主に、湿式洗浄が主流で、例えば、水洗、アルカリまたは酸による洗浄、洗剤による洗浄、溶剤洗浄等があります。これらは、単独で用いられることなく、複数の方法を組合せて用いられております。以下に注意事項を示します。
●水洗浄
最も一般的な洗浄方法、リンス方法ですが、目的によっては不純物のレベルを制御して用いる必要があります。
●アルカリ洗浄
ガラスはアルカリによって著しい浸食を受け、ガラス表面がはぎ取られます。アルカリとガラスの接触時間をできるだけ短くするか、アルカリ濃度を薄くすることが必要です。また、ガラス表面が白濁することがあります。
●酸洗浄
酸でガラス表面を洗浄することによって、ガラス表面の脱アルカリ処理となり、ガラスからのアルカリ溶出を少なくすることができます。フッ化水素酸(HF)は、ガラスを溶かしますが、目的によっては、取り扱いに十分注意して使用することもできます。昔からクロム硫酸液が、実験用ガラス器具の洗浄液として用いられてきましたが、クロムの残留や毒性から、今では特別な場合を除いて使用されなくなりました。
●洗剤洗浄
市販品にガラスの洗浄剤として優れた性能を有するものがありますが、使用にあたっては、洗浄液のpHに注意を要します。強アルカリ洗剤はおすすめできません。また、最後には水等によってリンスを行い、洗剤の残留がないように注意する必要があります。
●溶剤洗浄
溶剤には、揮発性が高く引火性のものが多いので、化学的、熱的に安定していて、不燃性、低毒性で安全なものを使用することをおすすめ致します。
これまでに示した洗浄方法に加えて、機械的作用を併用することによって、さらに効果的な洗浄が行えます。例えば、拭き取り、ラビング(ブラッシング)、液体噴射(ジェット噴射)、そしてよく用いられている超音波照射(超音波洗浄)がそれにあたります。超音波洗浄では、加速度効果やキャビテーション(空洞)効果によって汚れの除去が促進されます。同時に熱を加えることによって(例えば温水)も洗浄の効果は上がります。
■洗浄度の判定法
手に入れたガラスが清浄か、あるいは洗浄したガラスが清浄になったかどうかを知る必要があります。肉眼や顕微鏡で見てきれいになっていても、本当に清浄であるかどうかは疑問です。清浄度を知る方法として種々ありますが、例えば、呼気法(Bresth-Figure Test)をあげてみましょう。これは、とても簡便で迅速な評価法であり広く用いられています。ガラス表面に息を吹きかけて、表面に付着する微少水滴のパターンから清浄度を判定するというのがその方法です。息の代わりにスチーム(蒸気)を使っての判定も可能です。ただし、呼気法は、定量性には欠けます。
清浄度を定量化(数値化)するものとして、液体と洗浄済品との接触角を測定する方法があります。本来ガラスは、表面自由エネルギーが高く、水とよくぬれます(接触角<10°)。もし、ガラスが汚れているならば、その接触角は大きくなります。他に、清浄度を定量的に判定する方法として、電気的、光化学的方法がありますが、詳細は専門書を参考にして下さい。
- 専門書一例
- ガラス表面設計−洗浄と表面処理−
- :大場洋一(近代編集社 昭和58年)
- 精密洗浄技術
- :辻 薦 (工学図書 昭和63年)
- 工業用洗剤と洗浄技術
- :辻 薦 (工学図書 昭和63年)
■ガラス管瓶・試験管の洗浄度
当社の製造するガラス管瓶・試験管は、成型中は、バーナー火炎によって、また成型直後は、徐冷(610℃ 10分)されることによって、乾式洗浄を受けているとも言えます。乾式洗浄は、ガラス表面の有機物質の汚れを熱分解し、無機物を揮発除去する効果があります。目的によっては、エアーブラシ等をするだけでそのままお使い頂けます。
■滅菌処理
ガラス管瓶に医薬品等を入れる場合、洗浄と同時に滅菌処理を行うことが必要とされます。当社の製造しているガラス管瓶・試験管は、一般に用いられている全ての滅菌法に適応可能ですが、附属する栓、パッキング、キャップの耐熱性等を十分に考慮した上で処理を行って頂かなくてはなりません。
また、ガラス管瓶に、液体を充填してオートクレーブ(高圧蒸気滅菌)をする際には、ガラスからのアルカリ溶出に注意しなければなりません。高温高圧の状態においては、ガラスから内溶液にわずかにアルカリ等が溶出するので、内溶液の純度、性能に影響を与えることがあります。
ガラス(無色)をガンマ線滅菌する場合、照射線量にもよりますが、ガラスは薄茶色に着色されます。着色されてもガラスの性能・機能には、変わりありません。脱色するには500℃ 30分くらいの熱処理が必要です。